経営者や管理職の方から、「現場を任せるリーダーが育ってくれません、どうしたらいいでしょうか。」といった質問をよく受けます。
そのような質問を受けた企業の現場を観察してると、現場リーダーが育たないのではなく、管理職や経営者に問題があるために、リーダーが育つことができない場合が多いので、そのことを今日は書いてみたいと思います。
「口を出したくなる気持ちを、グッと抑える」
まずは原則として、
「管理職や経営者は現場リーダーを飛び越えて、実際の現場に口出ししてはいけません。」
これは絶対に守らねばならないことです。
では、なぜ管理職や経営者は直接現場に指示を出してはならないのでしょうか。 答えは単純で、その現場に口を出す行為そのものが、リーダー育成を阻害している大きな原因だからです。
飲食店での一コマを例に挙げて説明してみます。
オーナーが店舗に顔を出すと、ホールでの接客の様子や厨房の不手際が目につきました。
オーナーは、この絶好の機会を活かそうとばかりに、直接現場の社員に接客のイロハや厨房内のオペレーションを指導をします。
そして返す刀で店長自身の至らなさを叱責し、店長たるものどうあるべきか訓示を垂れ、これで店舗はよくなり、店長も育つであろうという浅はかな考えとともにご満悦で店舗を後にする。というものです。
このような事例は飲食店のみならず、製造業やサービス業…さまざまな業界で目にすることができます。「こんな事例、当社ではあり得ない。」と断言できる管理職や経営者の方は、リーダー育成に問題ないので、先を読み進める必要はありません。 しかし、身に覚えがあれば、なぜこのような行為がリーダー育成を妨げるのかについて、説明しますので覚えておいてほしいと思います。
「リーダーが自ら育つことができる環境を与える」
まずリーダーが本当に育つためには、リーダー自身に成長しようとする欲求を持ってもらう必要があります。
その欲求をリーダー自らに持たせるため、ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」を基に考えると、仕事における満足を高める為に必要な「承認」や「責任」を管理職や経営者は適切に与えて、リーダーの仕事に対するモチベーションを引き出してやる必要があります。
クリントン政権下でアル・ゴア副大統領の主席スピーチライターを務めた、ダニエル・ピンクも、TEDの「やる気に関する驚きの科学」というプレゼンにおいて、内的な動機づけとして「自主性」が発揮できる環境を与えることの重要性について説いています。
では、なぜ上司がリーダーを飛び越えて現場を指導してはいけないのか、それはリーダーを飛び越えて指導してしまうと、現場の社員はどうしてもリーダーの指示や指導ではなく、管理職や経営者の指導に従わなければなりません。 そこでは現場リーダーの考えが無視され、リーダーとして育つために必要であった、承認や責任という動機づけを放棄する結果になります。
先ほどの飲食店を例にするならば、店長として店舗の運営を任せたのであれば、現場の指導は店長が行うべき率先行動であり、管理職や経営者はその「承認」を取り消すような行為をしてはならず、また店長が持つべき、現場に対する「責任」を勝手に取り消すべきではないということです。
では、例の飲食店のオーナーはどのようにすればよかったのでしょうか。
オーナーが店舗に顔を出すと、ホールでの接客や厨房の不手際が目につきました。
オーナーは、この絶好の機会を活かそうと考え、現場の社員に判らないように店長を呼び、気づいた点を指摘しました。その上で店長に改善を指示し、店長として、どのように改善をするか考えを聞いたうえで対応を任せました。そして後日、改善の進捗を報告させ対応が完了していたのでオーナーは満足感を得ました。というものです。
ここでは、オーナーは自身の考えについて直接現場を指導せずに、店長に任せることで「責任」を与え、対応が完了したことで「承認」をしました。
また、直接に現場社員の前で叱責しないことで、店長としてのプライドも守りました。わざわざ、部下の前で叱責することでリーダーのやる気を削ぐ必要はありません。 会社の目的は永続的に会社が継続することで、そのために利益を生み出すことなのです。 管理職や経営者が部下を怒鳴りつけて、いい気持ちになることではありません。 管理職や経営者にとって大切なことは、マネジメントであり組織をつくり上げることであり、自らが社内の主役として派手な立ち回りをすることではありません。
店長サイドから考えてみると、店舗のリーダーである店長としての「責任」が与えられ、会社内での「承認」を適宜得ることで、内的な動機づけを自ら強めていくことができます。 この繰り返しがリーダーとして成長することにおいて重要な要因になるのです。 そのための環境をどのように作ってあげるか、経営者や管理職は、そこに知恵を絞って欲しいものです。
組織を強くするために、今以上にリーダー育成が不可欠であると考えるならば、いま現在のやり方が本当に適切であるか一度考え直してみるとよいでしょう。