ここ数日、ネットを中心に話題になっている牛丼業界のブラックな労働環境についての話題です。
某牛丼チェーンが社員の確保が出来ないために、勤務シフトを組むことができずに休業店舗が相次いでいるとの情報をもとに、口さがないネットの世界では、ブラック企業であると騒いでいるようですが、果たしてブラック企業というのは、どういった環境から生まれてくるものなのか、その見分け方のひとつのヒントを書いてみたいと思います。
社員採用の苦戦が悪循環のスパイラルを引き起こす
今回の事の発端となっている店舗休業ラッシュについて、企業の広報からは事実ではないと発表されてるようです(事実であったとしても、認めることはないでしょうが……)
ことの真偽については不明ですが、何らかの理由で休業店舗が多くなっているのは、ある意味では事実だと思われます。また社員採用に苦戦しているのことについては紛れも無い事実なのでしょう。
慢性的な社員採用の苦戦が、店舗の人員不足を招きますが、社員に負荷をかけることで、日々の業務については、なんとか遂行することも可能です。 しかし、誰もが発信者になる現代では、そのような厳しい労働環境に関する情報は瞬時に巷に流れ、より一層、社員採用に苦戦すると共に、限界を超えた社員の退職による更なる就業環境の悪化という悪循環のスパイラルです。
コモディティ化は危険な香り
この様に、なぜ企業は社員採用ができない事態に陥り、望むにしろ、望まざるにしろブラック化していくことになるのか、私の考えるひとつの原因です。
それは、コモディティ化がすすんでいる業界や企業の就業環境は、ブラック化しやすいということです。
コモディティ化というのは、市場に流通している商品がメーカーごとの個性を失い、消費者にとって、どこのメーカーの品を購入しても大差ない状態のことです。
例えば、今回の牛丼業界を例に考えてみると、牛丼市場に流通している商品である牛丼について、他社にはない付加価値を加え差別化を図るということが安易ならざるために、各社は市場原理の常として、より安い商品を投入するという価格競争を取らざるを得ません。結果としては価格競争が激化し、10円、20円の値引きをお互いに繰り返し、収益を悪化させていく流れになります。
またこの状況は、同時に社員のコモディティ化も招きます。
店舗における接客・サービスについて、他社にはない差別化を図り、付加価値を加えることが、簡単ではない以上、市場原理の常として、より人件費をかけずに店舗を運営することで、収益をあげようとします。
これらの、コモディティ化の流れは、お互いの体力を削り合うことで、誰も幸せにならないチキンレースを続けているようなものです。
社員から利益を生み出す
そして、収益が悪化してくると、商品やサービスの対価として利益を生み出すという本来のビジネスの取り組みから、手早く社員を材料に利益を生み出すことに企業は力を向けてしまいます。
すなわち、本業を原因とする収益悪化を回復させるためには、市場やお客様に対して働きかける必要がありますが、これは必ずしも会社の思惑通りの結果を導くとは限りません。 新商品が会社の思惑通りに売れてくれれば、こんなに楽なことはないですが、現実はそう簡単にいきません。
しかし、社員を材料に利益を生み出そうとすることについては、江戸時代の勘定奉行である神尾春央が言ったとされる「胡麻の油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」と同じで、ある程度は会社の思惑通りに、社員を就業させることが可能になりますのでの、安易に利益を計算することができます。
店舗が人員不足で、現場の社員の負荷がどれだけ高まったとしても、社員を増やすことなく更に負荷を高めて業務をまわすことができれば、それだけより多くの利益を見込むことができます。
極論を言えば、一人の社員で24時間365日、店舗営業ができれば、それが最善だと、もしかすると企業は考えているかもしれません。
俯瞰的にブラック化する未来を考える
つまり、牛丼業界の様に、コモディティ化の流れが激しい市場においては、今はよくても年々労働環境が悪化する可能性がある時限爆弾のようなものです。 4月からの消費税増税後に、更なる値引きをする牛丼チェーンを見ると、価格競争で顧客を取り込むこと以外に、有効な手を打てていないように思われます。
実際に、ここまで安価になった牛丼の材料費を、更なる大幅改善で原価を低減することは、かなり難しいと思われます。 そうなると、やはり労務費を更に切り詰める方向に進まざるをえないと思われますので、まだしばらくは、ブラック企業!と言われる日が続くのではないでしょうか。
単純に、飲食業界はブラックだ、牛丼チェーンのあの店はブラックだ、と考えるのではなく、なぜブラック企業化するのか、一歩引いて俯瞰的に見てみると、今はよくても将来ブラック化しそうな企業や業界が見えてくるかもしれません。 そういった視点で、自らの仕事の方向性を考えてみるのも面白いかもしれないです。