農薬混入事件から学ぶ:まとめ


アクリフーズの農薬混入事件について3回にわたって書いてきましたが、今回は、全体をまとめるとともに、国内の食品メーカーが置かれている状況も含めて記事を書きます。

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高まる安全基準が人件費を削減させる

食品メーカーの製品に対して、安全性を求める動きは年々厳しくハードルは高くなっています。傍から見ていても、果たしてそこまでしなければいけないのか、そこを厳しくすることで、どれほどの改善が期待できるのか疑問に思うこともしばしばです。 工場内のあらゆる場所にある毛髪混入防止の粘着ローラー (先日伺った企業では会議室にもあり、僕もローラーがけをするべきか迷いました) 箸の上げ下げまで規定するのではと思わせる細かく規定されたルール。確かに安全性を担保するためには、必要な取り組みではありますが、このような取り組みが無料で出来るわけではありません。取り組む為にはそれだけの経費・時間が必要になります。

しかし、このような取り組みに必要な経費が増大していても、商品価格に上乗せすることは消費者の反発や売上減少を恐れ、多くの企業は社内の経費削減で対応しています。

また、安全に関する経費の増大だけに留まらず、安全な原材料の調達コスト、高止まりする原油価格はパッケージ等の原材料費を高騰させ、販売の現場では価格競争と、食品メーカーの苦悩は例を挙げると枚挙にいとまがありません。

安全性と経費削減を両立させるために、社員が製品に触れる箇所を少なくする、機械化による効率化もありますが、僕が見ている限り、機械化も行き着くところまできている印象です。これ以上の大幅な効率アップはあまり期待できません。そのような状況の中で経費を削減できる大きな要素は、どうしても”人件費”になってしまいます。

 多大なクレームが反応を鈍くさせる

今回の事件で当初クレームが入った時点で、なぜ企業はすぐに対応を取らなかったのか、疑問を抱く方も多いかもしれませんが、実は食品メーカーには日常的に多くのクレームが入っています。今回の件も当初は多くのクレームのひとつではなかったかと思います。例えばクレーム件数として多い毛髪混入、他にも匂いがおかしい、変な味がした、食べて気持ちが悪くなった等などです。

確かに、企業の責に帰するクレームもあるのですが、一部については企業のせいにするのは、おかしいのではないか、と思わせる内容もあります。

そのようなクレームの中で、僕がメーカーで聞いて驚かされた例は、冷凍食品のパッケージを開け常温の部屋に半日おいていた後、レンジで温めたら変な味がした、というものがありました。このようなクレームであっても、企業としては『あなたが悪いんです』と結局言えなかったという話を聞きました。

何かあればすぐに救急車を呼ぶ、モンスター・ペイシェントの話題が、時々メディアで取り上げられます。このことが、本当に必要な人の元に救急車が駆けつけれない状況を引き起こす、との切り口で紹介されますが、食品メーカーのクレームについても同じことが言えると思います。
食品メーカーで品質管理をする方も、働くひとりの人間です。毎日のように似たり寄ったりのクレームを処理していると、何が早急な対応が必要で、何が後回しでも大丈夫なのか、判断が鈍ってしまい、本当に優先させるべき事象への対応が遅れる結果にもなります。もちろん大小クレームの対応にも経費がかかっています。

問題があった際にクレームとして、メーカーに改善を促すことは企業側の立場からしても、ぜひ伝えてほしいことです。なぜならサイレントクレームという形で、二度とその商品を買わない。ということになると、企業にとっては改善するチャンスを失い、いつまで経っても改善が進まないという状況を招きつつ、消費者が離れていくという結果になります。

あくまで今回のアクリフーズの対応に問題がないと言っているわけではなく、アクリフーズも含めたた食品メーカーの置かれている現状を少しでも理解してもらい、消費者としてはクレームを出す前に、そのクレームが適当か否かを判断することが、まわりまわって自らが手にする食品の安全性にも繋がってくるのではないかと僕は考えます。

これを改善するには、ホームページにクレームについてのFAQを分かりやすく設けることもひとつのアイデアだと考えます。例えば毛髪混入を見つけたらどうしたらよいのか、異臭を感じた際にはどうすればいいのか、大部分のクレームはいくつかのパターンに集約できますのでホームページで拾いきれない異例な事象を企業側としては見極めやすくなります。いまの世の中、異物混入はありえません。と言い張るより、万が一問題があれば企業として真摯に対応させてもらう姿勢を打ち出す方が、信頼を得るでしょう。

食品メーカーは3つのバランスが大切

最後に前3回の記事で書いた、フードディフェンス・給与と不満・情報開示について、食品メーカーに取り組んでほしいことは、ハードとしてのフードディフェンスだけでは100%の管理はできないことを理解した上で抑止効果を考えて仕組み化し、給与面だけで人を縛ることができると考えるのではなく、社員が働きやすい環境やモチベーションを高めると仕組みづくりを同時に行っていきます。これがソフト面の対応です。その上で、万が一の危機が想定外では済まないことを理解して、クライシス・マネジメントとしての準備をしておくことです。

この3つの仕組みを、どのようにバランスをとり運営していくかを考えることが、大切なことになります。もし自社で同様の事件が発生しても、問題なく対応できる備えがある企業にとっては、今一度見直しのタイミングとして、逆に倒産の危機に陥ることが想定される企業にとっては、仕組みを作るよい機会として今回の事件を活かし、二度と同様の事件を起こさない体制を各食品メーカーがとることが求められると思います。

ついでに言えば、このような事件の後ですので、来期に向けて社内での予算も取りやすいと思われます。

 

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