農薬混入事件から学ぶ:フードディフェンス


昨年末からニュース紙面を賑わせた㈱アクリフーズの農薬混入事件。

年明けから今日に至るまで多くの食品関連メーカーより意見を求められました。そこで僕が話をさせて頂いたことについて数回に渡って書いてみます。

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事件から見える3つの課題

今回の事件報道などから考察すると、アクリフーズの人事とリスク管理について、3つの課題が見えてきます。(あくまで、僕の知る限りの報道情報と食品メーカーとのお付き合いの中で知り得た一般的情報を基にした私見ですのであしからず。)

①フードディフェンスへの過信
②給与条件・就業環境と不満
③情報開示の方法

上記3点が大きな課題ですが、まずは“①フードディフェンスへの過信”について書いてみます。

フードディフェンスとは?

フードディフェンスとは簡単にいうと、何者かが市場に流通する食品に毒物などを混入し、被害者を発生させ、またそれに起因した社会不安を煽ること。つまり食品を使ったテロ(食品テロ)を防ぐための方策、人為的に毒劇物が混入されることを未然に防ぐための取り組みです。

フードディフェンスの実務については、生産ラインに異物を持ち込ませないため制服のポケットをなくす、監視カメラで作業の様子を確認し異物を混入させない、制服は会社が全て洗濯することで有害物質等を付着させないなど方法は多岐に渡り、実際フードディフェンスへの各社の取り組みは、年を経るごとに高度化し厳しくなっていることを僕も感じています。

今回の事件を受けてある食品メーカーさんからは、空港セキュリティのようなボディチェックの仕組みを、製造ライン入室前に設けるべきかとの話も出ていましたが、僕の意見としては、そのような対応で一旦は安全性を担保できたとしても、永続的に担保できるとは思えないとお答えしました。

管理を強化しても事件は防げない

なぜ管理を強化しても安全を担保できないかといえば、食品テロを起こす犯人からすれば、製造ラインなど工場の仕組みに、ほんの僅かでもスキを見つければよく、ラインで勤務する1日8時間、月20日間、年250日なりは、犯人に与えられたスキを見つけることができる機会です。このことと比較して、企業側は24時間100%の管理が求められますので、スタート地点から圧倒的に不利な状況にあります。

また食品製造ラインは、半導体などの製造ラインと比較すると労働集約型の環境であり、多人数がこまかく出入りする製造ラインに就く全ての人員の行動を100パーセント管理することができると考えるのは、リスク管理の観点からすると甘い考え方でしょう。

今回の件でも、当初の会見では“制服にポケットがないので、製造ラインに異物を持ち込むことはできない”と発表されましたが、現実的には容疑者は製造ラインに異物を持ち込むことに成功しています。

ここで大事なことは、制服内の下着にもポケットのないものを着用させる。など場当たり的な対応をすることでなく、フードディフェンスは完全なシステムではないことを理解することです。

フードディフェンスそのものが不要であるとか、無駄であると言いたいのではなく、どれだけ完全に見えるフードディフェンスの仕組みであっても、その仕組を考え運用するのが人間である限り、完璧なものは出来ないということを念頭においておくことが大事であるというだけです。

そのことを理解した上で、不完全な仕組みであるフードディフェンスをどのように仕組み化し、より安全な食品を消費者に届けれるように運用するのか、そこが各食品メーカーにとって大事なポイントであり頭を悩ませることだと思います。今回の事件では、そこに不備があったことは結論からすると否めません。

以上が、農薬混入事件から考えられる問題点のひとつ、フードディフェンスへの過信が結果として招く危険性でした。次回の記事では2つ目の問題点、就業環境・条件を整えることについて書きたいと思います。

セキュリティとセーフティ

ちなみに僕の私見としては、フードディフェンスを運用する上では危険の種類を2つに分け、その観点から仕組みを構築するべきであると考えます。その2つとは、
セキュリティ(security)・・・意志のある危険から自社食品を守ること、
セーフティ(safety)・・・意志のない危険から消費者・自社を守ることです。
この件についての今回の内容から外れますので、また別の機会で記事にしたいと思います。

 

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