3月に入り羽織袴の卒業生を見ると、自分自身の卒業式が、つい先日のことであるかのように思い起こされて、ノスタルジックな気持ちにさせてくれます。
さて、本題のアクリフーズの農薬混入事件から学べることについての話ですが、今回は給与条件と不満の関係性について書いてみます。
ハーズバーグの動機づけー衛生理論から考える
容疑者逮捕後の、工場発表で”給与についての不満は容疑者から出ていない”とありました。(工場としては、給与に不満があったとしても、そのように言わざるを得ないでしょうが…)今回考えたいことは、給与と不満の関係についてです。
ここでは、ハーズバーグの『動機づけ-衛生理論』を用いてみます。ハーズバーグは、人間が仕事をする中には2種類の欲求があると仮定しました。
一つ目は、苦しいコトや不足している状態を避けたいという、動物本能的な低次欲求。
二つ目は、難しいことを成し遂げ自ら成長したいという、人間だからこそ持つ高次欲求。
今回の容疑者が不満を持っていたとされる、”給与”はどちらの欲求になるのでしょう。仕事において給与を多く欲しいと思うことは、人間だからこそ持つ高次欲求なのでしょうか?
答えは、本能からくる低次欲求になります。この欲求を『衛生要因』と呼びます。
ちなみに、自らを成長させたい等、人間だからこそ持つ欲求を『動機付け要因』と呼びます。
例えば、今回の容疑者のように報道にある、月12万円の給与しか貰えないなんて、やってらんねぇ!と不満を募らせたことは、裏を返せば不足している状況を避けたい本能からくる欲求です。
給与が上がっても、不満はなくならない
ここで不思議なことは、例えば給与を上げたとしても、このやってられないと感じる不満が小さくなるだけで、仕事に対する満足感が向上する訳ではないことです。
詳しく述べると、月12万円の給与を15万円に昇給すると、短期的には不満が小さくなり、満足感は向上するかもしれませんが、これで不満がきれいさっぱり消えてなくなるわけではありません。15万円の給与に応じた不満のレベルになるだけです。
どちらにしても不満を持たれるのであれば、給与は安くてもいいのかと尋ねられると、安くすればそれだけ不満を増大させますので、様々なリスクを高める結果になります。(通常は就業意欲の減退、退職、転職などの選択肢が多いでしょう。)
今回の事件では、成果主義という一見正しい名の基に、給与体系をリストラクチャリングしたことで、単純に容疑者の不満を増大させる結果を招いたことは、企業として深く反省しなければいけないのでしょう。下げたのであれば、他の部分で何らかフォローをするべきだったのでしょう。
『じゃあどうすればいいのか!』と強く叱られそうですが、正直簡単な解決方法はありません。
大切なことは、給与に不満をもっているから少し昇給してやれば、これで満足するであろうと考えるのではなく、衛生要因の要素(給与、社内の対人関係、作業環境、身分など)から、不満の原因を小さくし、動機付けの要素(達成、承認、責任、昇進、仕事そのもの、成長など)から、満足を大きくさせる、そのような環境・条件を企業としてバランスよく構築することを、やっていくだけです。
これは一朝一夕にできるものではなく、トライ&エラーの繰り返し、そして終わりのない取り組みになるでしょうが、組織作りとはその様なモノだと僕は考えます。
7つの習慣から就業環境を考えてみる
最後に、今回の事件の概要を聞いた時、僕が思い出した、スティーブン・R・コヴィー著の『7つの習慣』の68ページから一部分をお伝えします。
多くの会社は、口先では顧客満足をうたい文句にしながら、顧客と接する従業員のことを完全に無視している。顧客満足を願うなら、一番大切な顧客に接するのと同じように従業員にも接しなさいということになる。
人の手はお金で買うことが出来るが、心を買うことはできない。熱意と忠誠心は人の心の中のものである。