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農薬混入事件から学ぶ:情報開示

アクリフーズの農薬混入事件から考える人事、第3回目は情報開示の方法について書いてみたいと思います。

人事ではなく広報の業務ではないかという内容ですが、情報開示をうまく行わないと、今回のような事件の際に社員の生活を守れないばかりか、多大な影響を与える結果になりますので、舵取りをする管理職の方は理解しておく必要があります。

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情報開示が会社を危機に陥れる

今回の、問題発覚以降、アクリフーズの記者発表や情報発信を見ている限り、改善できる課題が見受けられます。また食品偽装や異物混入事件が発生する度に繰り返される、情報開示の遅れや発信の方法があまりにも稚拙すぎるため、企業はよりダメージを受ける結果を自ら招いています。

これは食品という消費者の口に直接入る身近な商品であるからこそ、一旦発覚すると、消費者にとっては自分自身の身近な問題として、意識に落とし込まれるということを、食品に関わる仕事の方は理解しておく必要があります。このことと逆のプラス意識への働きかけが、メディア等で納豆やトマトジュースが健康に良いと紹介されると、スーパーの売り場から商品が消えてしまうことは、物事の表と裏です。

それだけ消費者にとって身近なモノを作るメーカーにとって、自社製品の価値が著しく毀損される問題は、数ある事例(2000年の雪印集団食中毒事件など)からも明白なように、会社の存続すら危ぶまれる状況を引き起こします。つまり一般的な損得を考えるリスクマネジメント程度の意識では甘く、対応を一歩誤れば会社が消えてなくなるクライシス(危機)マネジメントであると理解しておかなければいけません。

ナポレオンの方法を参考に情報を開示する

このような企業の将来を左右する事態になった際に、まず大切なことは、情報をどのように早く適切に社会に出すかということです。情報のスピードが早く多様になった現代社会で、問題を表面化させることなく、内部で処理できるとは決して考えてはいけません。”いま何が起こっているのか”という情報を随時に素早く、発信していくことが大切なのです。

ナポレオンは部下に『悪い報告を先にせよ!良い報告は明日でもよい』と言っています。この話をナポレオンを消費者や社会、部下を食品メーカーに置き換えると分かりやすいでしょう。異物混入などの消費者にとって悪い情報は、詳細が判明する前に、まずは速やかに発信すことです。あとで事実が確定した際に、最初の発表よりも事態が好転していれば、事態は収束に向かうことが出来ます。

今回の事件では、最悪の結果は変わりませんが、例えば、商品から異臭がするとクレームが入り、工場で使われたペンキが疑われた時点で、まずはホームページでも構わないので発表をするべきでした。そうすれば、発表が遅いという責を回避することはできました。

スーパーで、お客様の声としてお叱りなどを掲示していますが、あれはよい取り組みです。自らにとってマイナスである情報もオープンにする姿勢が、逆に信頼を得ることに繋がっています。(スーパーに行き観察していると、多くの方が、あのお叱りを見ていることが実際に理解できるでしょう。)

状況の確認や社内の都合を優先させ、結果として最悪の事態になってしまうと、時間だけが無駄に経過しています。その間にも物事は進んでいますので事件の隠蔽を疑われ、より社会や消費者は怒りを持つのです。いくら詳細が判明してから発表するつもりでしたと言い訳したところで後の祭りにしかなりません。

今回は、11月中旬にクレームが入り、記者発表になったのが年末と1ヶ月半の期間が空いてしまいました。アクリフーズの立場になって考えれば、今回の事件の様に、何が原因か検討もつかぬまま分析を開始したのであれば、ある程度、時間がかかることは仕方ありません。テレビのように、分析したら原因がすぐに判明することは現実にはありません。
またOEM生産もあり、利害関係者への根回しに時間がかかったというのも、仕方がないのでしょう。しかし、分析に時間がかかり利害関係者が多いからこそ、早く情報発信をしないと、より相手先に迷惑をかけ、問題を更に大きくする原因にもなるのです。

また責任を少しでも回避したいとの思惑が『異物を現場に持ち込むことは出来ない』『容疑者の給与についての不満は確認できていない』と言い訳に聞こえてしまう発表をしてしまいます。このような場合には『会社は全責任を持つ』『あらゆる可能性を排除しない』『犯罪であれば絶対に許さない』『情報は常にオープンにする』という点を、全面に出すほうが結果としては好印象を受けることが多いものです。

以上、今回の件から学ぶことができることは”いま何が起こっているのか、悪い情報ほど、早くオープンにしてしまう”ということです。会社が危機に陥った時に、回避できるのか否かTOPの情報発信によって変わります。このことを考えておきたいものです。

農薬混入事件から学ぶ:給与と不満

3月に入り羽織袴の卒業生を見ると、自分自身の卒業式が、つい先日のことであるかのように思い起こされて、ノスタルジックな気持ちにさせてくれます。

さて、本題のアクリフーズの農薬混入事件から学べることについての話ですが、今回は給与条件と不満の関係性について書いてみます。

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ハーズバーグの動機づけー衛生理論から考える

容疑者逮捕後の、工場発表で”給与についての不満は容疑者から出ていない”とありました。(工場としては、給与に不満があったとしても、そのように言わざるを得ないでしょうが…)今回考えたいことは、給与と不満の関係についてです。

ここでは、ハーズバーグの『動機づけ-衛生理論』を用いてみます。ハーズバーグは、人間が仕事をする中には2種類の欲求があると仮定しました。

一つ目は、苦しいコトや不足している状態を避けたいという、動物本能的な低次欲求。
二つ目は、難しいことを成し遂げ自ら成長したいという、人間だからこそ持つ高次欲求。

今回の容疑者が不満を持っていたとされる、”給与”はどちらの欲求になるのでしょう。仕事において給与を多く欲しいと思うことは、人間だからこそ持つ高次欲求なのでしょうか?

答えは、本能からくる低次欲求になります。この欲求を『衛生要因』と呼びます。
ちなみに、自らを成長させたい等、人間だからこそ持つ欲求を『動機付け要因』と呼びます。

例えば、今回の容疑者のように報道にある、月12万円の給与しか貰えないなんて、やってらんねぇ!と不満を募らせたことは、裏を返せば不足している状況を避けたい本能からくる欲求です。

給与が上がっても、不満はなくならない

ここで不思議なことは、例えば給与を上げたとしても、このやってられないと感じる不満が小さくなるだけで、仕事に対する満足感が向上する訳ではないことです。

詳しく述べると、月12万円の給与を15万円に昇給すると、短期的には不満が小さくなり、満足感は向上するかもしれませんが、これで不満がきれいさっぱり消えてなくなるわけではありません。15万円の給与に応じた不満のレベルになるだけです。

どちらにしても不満を持たれるのであれば、給与は安くてもいいのかと尋ねられると、安くすればそれだけ不満を増大させますので、様々なリスクを高める結果になります。(通常は就業意欲の減退、退職、転職などの選択肢が多いでしょう。)

今回の事件では、成果主義という一見正しい名の基に、給与体系をリストラクチャリングしたことで、単純に容疑者の不満を増大させる結果を招いたことは、企業として深く反省しなければいけないのでしょう。下げたのであれば、他の部分で何らかフォローをするべきだったのでしょう。

『じゃあどうすればいいのか!』と強く叱られそうですが、正直簡単な解決方法はありません。

大切なことは、給与に不満をもっているから少し昇給してやれば、これで満足するであろうと考えるのではなく、衛生要因の要素(給与、社内の対人関係、作業環境、身分など)から、不満の原因を小さくし、動機付けの要素(達成、承認、責任、昇進、仕事そのもの、成長など)から、満足を大きくさせる、そのような環境・条件を企業としてバランスよく構築することを、やっていくだけです。

これは一朝一夕にできるものではなく、トライ&エラーの繰り返し、そして終わりのない取り組みになるでしょうが、組織作りとはその様なモノだと僕は考えます。

7つの習慣から就業環境を考えてみる

最後に、今回の事件の概要を聞いた時、僕が思い出した、スティーブン・R・コヴィー著の『7つの習慣』の68ページから一部分をお伝えします。

多くの会社は、口先では顧客満足をうたい文句にしながら、顧客と接する従業員のことを完全に無視している。顧客満足を願うなら、一番大切な顧客に接するのと同じように従業員にも接しなさいということになる。
人の手はお金で買うことが出来るが、心を買うことはできない。熱意と忠誠心は人の心の中のものである。

農薬混入事件から学ぶ:フードディフェンス

昨年末からニュース紙面を賑わせた㈱アクリフーズの農薬混入事件。

年明けから今日に至るまで多くの食品関連メーカーより意見を求められました。そこで僕が話をさせて頂いたことについて数回に渡って書いてみます。

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事件から見える3つの課題

今回の事件報道などから考察すると、アクリフーズの人事とリスク管理について、3つの課題が見えてきます。(あくまで、僕の知る限りの報道情報と食品メーカーとのお付き合いの中で知り得た一般的情報を基にした私見ですのであしからず。)

①フードディフェンスへの過信
②給与条件・就業環境と不満
③情報開示の方法

上記3点が大きな課題ですが、まずは“①フードディフェンスへの過信”について書いてみます。

フードディフェンスとは?

フードディフェンスとは簡単にいうと、何者かが市場に流通する食品に毒物などを混入し、被害者を発生させ、またそれに起因した社会不安を煽ること。つまり食品を使ったテロ(食品テロ)を防ぐための方策、人為的に毒劇物が混入されることを未然に防ぐための取り組みです。

フードディフェンスの実務については、生産ラインに異物を持ち込ませないため制服のポケットをなくす、監視カメラで作業の様子を確認し異物を混入させない、制服は会社が全て洗濯することで有害物質等を付着させないなど方法は多岐に渡り、実際フードディフェンスへの各社の取り組みは、年を経るごとに高度化し厳しくなっていることを僕も感じています。

今回の事件を受けてある食品メーカーさんからは、空港セキュリティのようなボディチェックの仕組みを、製造ライン入室前に設けるべきかとの話も出ていましたが、僕の意見としては、そのような対応で一旦は安全性を担保できたとしても、永続的に担保できるとは思えないとお答えしました。

管理を強化しても事件は防げない

なぜ管理を強化しても安全を担保できないかといえば、食品テロを起こす犯人からすれば、製造ラインなど工場の仕組みに、ほんの僅かでもスキを見つければよく、ラインで勤務する1日8時間、月20日間、年250日なりは、犯人に与えられたスキを見つけることができる機会です。このことと比較して、企業側は24時間100%の管理が求められますので、スタート地点から圧倒的に不利な状況にあります。

また食品製造ラインは、半導体などの製造ラインと比較すると労働集約型の環境であり、多人数がこまかく出入りする製造ラインに就く全ての人員の行動を100パーセント管理することができると考えるのは、リスク管理の観点からすると甘い考え方でしょう。

今回の件でも、当初の会見では“制服にポケットがないので、製造ラインに異物を持ち込むことはできない”と発表されましたが、現実的には容疑者は製造ラインに異物を持ち込むことに成功しています。

ここで大事なことは、制服内の下着にもポケットのないものを着用させる。など場当たり的な対応をすることでなく、フードディフェンスは完全なシステムではないことを理解することです。

フードディフェンスそのものが不要であるとか、無駄であると言いたいのではなく、どれだけ完全に見えるフードディフェンスの仕組みであっても、その仕組を考え運用するのが人間である限り、完璧なものは出来ないということを念頭においておくことが大事であるというだけです。

そのことを理解した上で、不完全な仕組みであるフードディフェンスをどのように仕組み化し、より安全な食品を消費者に届けれるように運用するのか、そこが各食品メーカーにとって大事なポイントであり頭を悩ませることだと思います。今回の事件では、そこに不備があったことは結論からすると否めません。

以上が、農薬混入事件から考えられる問題点のひとつ、フードディフェンスへの過信が結果として招く危険性でした。次回の記事では2つ目の問題点、就業環境・条件を整えることについて書きたいと思います。

セキュリティとセーフティ

ちなみに僕の私見としては、フードディフェンスを運用する上では危険の種類を2つに分け、その観点から仕組みを構築するべきであると考えます。その2つとは、
セキュリティ(security)・・・意志のある危険から自社食品を守ること、
セーフティ(safety)・・・意志のない危険から消費者・自社を守ることです。
この件についての今回の内容から外れますので、また別の機会で記事にしたいと思います。