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社員のやる気を上手に引き出すハーズバーグの理論

中小企業に伺うと、よく受ける相談のひとつに、『社員のやる気がない、給与が低いからなのか?』というものがあります。 その際には、社員のやる気を引き出すための考え方は、人はパンのみに生きるにあらず(聖書の本来の意味ではありません)ですよ、とお答えしています。

確かに社員が働くひとつの大事な要素である給与等の雇用条件は、もちろん大事です。 しかし、社員をやる気にさせるのは、給与等の雇用条件だけでしょうか。 この『人はパンのみに生きるにあらず』ということについて、ハーズバーグの『動機づけ-衛生理論』を用いて、やる気を出す取り組みについて書いてみます。

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 資本力のない中小企業だからこそ、社員のやる気が重要

ハーズバーグの『動機づけ-衛生理論』については、『農薬混入事件から学ぶ:給与と不満』にも書きましたが、給与は不満の種であり、どれほど昇給させても種そのものは消えてなくなる訳ではありません。給与に対する不満が大きくなったり、小さくなったり変化するだけです。

人・モノ・金の揃った大手企業であれば、給与や福利厚生を充実させ不満の種を小さくすると同時に、多額の給与によって会社に縛りつける荒業も可能ですが、多くの中小企業では限られた人・モノ・金の中でそうもいきません。
ただ、社員ひとりひとりの仕事への取組み方次第で、結果を大きく変えることができる中小企業だからこそ、社員のやる気をどのように引き出していくのかに、目を向けるべきであると考えます。

社員をやる気にさせるプロセスとは

そのような社員のやる気を引き出すことができる物事を、ハーズバーグの理論では、『動機づけ』と呼びます。 動機づけには、仕事を達成すること・仕事を承認されること・仕事そのもの・責任・昇進・社員自身が成長を感じる、等があります。

例えるなら、社員自身が仕事そのものに興味を持てる教育を行い、その仕事にゴールを設け、本人に任せることで責任を持たせ、ゴールを達成できたら、まず承認し、達成を繰り返すことで成長を本人に自覚させ、その繰り返しが昇進に繋がっていく。その様な会社内のプロセスを作っていくことです。

これらのことは、給与改定や福利厚生を充実させることと比較して、金銭的な経費は非常に少なくて済みます。 どのようにプロセスを組み立て、実行していくのかを考え、社内で行動を開始すればよいだけです。 また万が一、失敗してもは損失は非常に少なくてすみます。

これら動機づけは、社員の仕事に対する満足感に大きく寄与します。 給与や福利厚生などが他社より劣っているとしても、それ以上に仕事に対する満足感があれば、人は仕事に対して、やる気を持つことができます。 けっして給与が恵まれている訳ではない、NPO法人や社会的企業で、多くの方が頑張ってある事からも理解できるのではないでしょうか。

敬意を持って社員に接する

結論として、人はどんなに単調な仕事でも、自分の仕事に意味があり、周りから適切に評価されていると感じることができれば、やる気を持って仕事に取り組むことが出来ます。 やる気を引き出すプロセスを構築するということは、会社はあなた達社員に対して、敬意を持って接しています。という意思表示でもあります。
逆に、高い給与さえ払えばいいという姿勢は社員に対して、あなたは金銭で動く人間ですという間違ったアピールにもなりかねません。 社員に対し意図しない発信をしてしまい社員のやる気を削ぐことがないように、まずは簡単なことから、社員のやる気を少しづつでも引き出すことを、会社や経営者層はやってほしいと思います。

社員採用に苦戦している中小企業にまず覚えてほしいこと

多くの中小企業に伺わせていただくと、『社員の採用に苦戦している』『よい人材がきてくれない』『募集をしても誰も来ない』という相談をほぼ100%の確率で経営者層から受けます。

中小企業にとって採用活動に苦戦をするのは、最も頭の痛い問題のひとつですが、採用できない理由を、求職者や社会の環境に求めても仕方がありません。 まずは自らが改善できる簡単な取り組みから始めましょうと、経営層に話をさせて頂く内容について、今回の記事では書いてみたいと思います。

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なぜ採用できると思うのですか?

僕が「どうして、よい人材を採用できると思うのですか?」とお聞きすると、だいたい質問された方はきょとんとした顔をされます。 そこで「なぜ求職者の方が、貴社を志望すると思ってあるのでしょうか?」と続けると、そのまま答えに詰まられるというのが、ほぼテンプレートになっています。

ここで伝えたいことは、ただひとつ、求職者が志望する為の道筋ができていない、ということです。 日本国内に法人の数は約258万社、個人事業まで合わせると400万の数があります。 自社のある地区でも常に数百以上の企業が、さまざまな求人募集を行っていることでしょう。 地域にある数多くの企業が、よりよい人材を獲得したがっているライバルであることを理解しておく必要があります。

その環境下で、ライバル企業に負けない採用活動をするためには、求職者が自社を志望する道筋を上手に作ってあげる必要があります。 例えていうならば、ハローワークに求人を出した、求人媒体に広告料を払い掲載しただけではいけないということです。 言い換えれば、求人を出した、広告を掲載した、という行動自体は必要なことですが、そのひとつひとつの行動が、単体として完結してはいけません。

中小企業こそマーケティング意識を持って採用活動をするべき

大企業のように採用活動に大きな経費を使えない、そんな中小企業だからこそ知恵を使った採用活動が大事になってきます。 そこで参考にしてほしい考え方が、アメリカ・マーケティング協会のマーケティング定義です。

マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。

この定義を紐解くと、求職者が自社を志望してくれる為には、パートナー(求職者)にとって、価値のある提供物(求職者が自社で働くことの様々な要因)を、伝達するための一連の制度、プロセスが大事である、ということです。

簡単にいえば、求職者に自社の雇用条件だけアピールしても、ライバルとの差別化が難しいのが現状です。 やり甲斐や働く意義、そして求職者の将来の姿を含め、働きたいと思える情報を、どのように伝え、そして志望したい気持ちを醸成していくのか、そのプロセスを考えなければいけません。

まずは概要として、このことを理解した上で自社としては、どのようなプロセスを組むことができるのか、そのことを考えてほしいと思います。

農薬混入事件から学ぶ:まとめ

アクリフーズの農薬混入事件について3回にわたって書いてきましたが、今回は、全体をまとめるとともに、国内の食品メーカーが置かれている状況も含めて記事を書きます。

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高まる安全基準が人件費を削減させる

食品メーカーの製品に対して、安全性を求める動きは年々厳しくハードルは高くなっています。傍から見ていても、果たしてそこまでしなければいけないのか、そこを厳しくすることで、どれほどの改善が期待できるのか疑問に思うこともしばしばです。 工場内のあらゆる場所にある毛髪混入防止の粘着ローラー (先日伺った企業では会議室にもあり、僕もローラーがけをするべきか迷いました) 箸の上げ下げまで規定するのではと思わせる細かく規定されたルール。確かに安全性を担保するためには、必要な取り組みではありますが、このような取り組みが無料で出来るわけではありません。取り組む為にはそれだけの経費・時間が必要になります。

しかし、このような取り組みに必要な経費が増大していても、商品価格に上乗せすることは消費者の反発や売上減少を恐れ、多くの企業は社内の経費削減で対応しています。

また、安全に関する経費の増大だけに留まらず、安全な原材料の調達コスト、高止まりする原油価格はパッケージ等の原材料費を高騰させ、販売の現場では価格競争と、食品メーカーの苦悩は例を挙げると枚挙にいとまがありません。

安全性と経費削減を両立させるために、社員が製品に触れる箇所を少なくする、機械化による効率化もありますが、僕が見ている限り、機械化も行き着くところまできている印象です。これ以上の大幅な効率アップはあまり期待できません。そのような状況の中で経費を削減できる大きな要素は、どうしても”人件費”になってしまいます。

 多大なクレームが反応を鈍くさせる

今回の事件で当初クレームが入った時点で、なぜ企業はすぐに対応を取らなかったのか、疑問を抱く方も多いかもしれませんが、実は食品メーカーには日常的に多くのクレームが入っています。今回の件も当初は多くのクレームのひとつではなかったかと思います。例えばクレーム件数として多い毛髪混入、他にも匂いがおかしい、変な味がした、食べて気持ちが悪くなった等などです。

確かに、企業の責に帰するクレームもあるのですが、一部については企業のせいにするのは、おかしいのではないか、と思わせる内容もあります。

そのようなクレームの中で、僕がメーカーで聞いて驚かされた例は、冷凍食品のパッケージを開け常温の部屋に半日おいていた後、レンジで温めたら変な味がした、というものがありました。このようなクレームであっても、企業としては『あなたが悪いんです』と結局言えなかったという話を聞きました。

何かあればすぐに救急車を呼ぶ、モンスター・ペイシェントの話題が、時々メディアで取り上げられます。このことが、本当に必要な人の元に救急車が駆けつけれない状況を引き起こす、との切り口で紹介されますが、食品メーカーのクレームについても同じことが言えると思います。
食品メーカーで品質管理をする方も、働くひとりの人間です。毎日のように似たり寄ったりのクレームを処理していると、何が早急な対応が必要で、何が後回しでも大丈夫なのか、判断が鈍ってしまい、本当に優先させるべき事象への対応が遅れる結果にもなります。もちろん大小クレームの対応にも経費がかかっています。

問題があった際にクレームとして、メーカーに改善を促すことは企業側の立場からしても、ぜひ伝えてほしいことです。なぜならサイレントクレームという形で、二度とその商品を買わない。ということになると、企業にとっては改善するチャンスを失い、いつまで経っても改善が進まないという状況を招きつつ、消費者が離れていくという結果になります。

あくまで今回のアクリフーズの対応に問題がないと言っているわけではなく、アクリフーズも含めたた食品メーカーの置かれている現状を少しでも理解してもらい、消費者としてはクレームを出す前に、そのクレームが適当か否かを判断することが、まわりまわって自らが手にする食品の安全性にも繋がってくるのではないかと僕は考えます。

これを改善するには、ホームページにクレームについてのFAQを分かりやすく設けることもひとつのアイデアだと考えます。例えば毛髪混入を見つけたらどうしたらよいのか、異臭を感じた際にはどうすればいいのか、大部分のクレームはいくつかのパターンに集約できますのでホームページで拾いきれない異例な事象を企業側としては見極めやすくなります。いまの世の中、異物混入はありえません。と言い張るより、万が一問題があれば企業として真摯に対応させてもらう姿勢を打ち出す方が、信頼を得るでしょう。

食品メーカーは3つのバランスが大切

最後に前3回の記事で書いた、フードディフェンス・給与と不満・情報開示について、食品メーカーに取り組んでほしいことは、ハードとしてのフードディフェンスだけでは100%の管理はできないことを理解した上で抑止効果を考えて仕組み化し、給与面だけで人を縛ることができると考えるのではなく、社員が働きやすい環境やモチベーションを高めると仕組みづくりを同時に行っていきます。これがソフト面の対応です。その上で、万が一の危機が想定外では済まないことを理解して、クライシス・マネジメントとしての準備をしておくことです。

この3つの仕組みを、どのようにバランスをとり運営していくかを考えることが、大切なことになります。もし自社で同様の事件が発生しても、問題なく対応できる備えがある企業にとっては、今一度見直しのタイミングとして、逆に倒産の危機に陥ることが想定される企業にとっては、仕組みを作るよい機会として今回の事件を活かし、二度と同様の事件を起こさない体制を各食品メーカーがとることが求められると思います。

ついでに言えば、このような事件の後ですので、来期に向けて社内での予算も取りやすいと思われます。